拝啓、夜明けのショパン様
拝啓 夜明けのショパン様
2000年も瞬く間に25年が過ぎ、
様々な文明の利器が登場し、
時代は、貴方が活躍していた頃と恐ろしく変化しました。
特許満載の現代グランドピアノ。
貴方のお好みだったプレイエルから、随分様子も変わりました。
貴方なら、どの現代楽器をチョイスするのでしょう...
医学は更に発展し、
貴方の時代に分かっていなかった身体生理学も、
2000年近くには、かなり解明が進みました。
今の医学を持ってなら、あなたの病も克服できたのでは?と思います。
貴方が自らの体系的な奏法書を残さなかったのはなぜでしょう。
まるで不完全な宝物としてしか遺してくれなかったことにこそに、
意儀を感じ、私は一つの仮説を立てました。
皆それぞれに感性・情熱の賜物と、
我こそショパンという観点で貴方の曲を弾くことに、努力を惜しみません。
でも、あなたの遺した言葉、
「どうせみんな、こんな風に僕の曲、弾くんでしょ?」。
そう皮肉って弾いてみせたと聞いていますが、
でもあなたの失望的な言葉を払拭させることは、そう簡単ではないのです。
音の評判、弟子の証言の意味が、一本に繋がらなければ、
仮設は立てられません。
弟子の証言のうち、一つ二つが納得できても
それはただの偶然の一致に他ならない...と私は考え続け、
音と証言との裏付けとなるものを模索し続けました。
貴方が弟子に演奏に求めた言葉の数々を、先入観・固定観念を外した
生理学的見地から静観し、自分の身体を通して
その真意を感じ考え、突き詰めることを何度も繰り返すうちに、
私には、一定の理論が見えてきました。
確かに独自の推論の域ですが、
どこかからの切り抜きの寄せ集めというものではありません。
永く精査してきただけの単なる解釈でもなく、
身体の中に成る共鳴・創造でした。
たとえ、200年の時を超えても
ショパンというあなたの存在は、今も私にとっては在り続けています。
誰をも虜にしたという高貴で品のある音を弾くため
何を身体の中で生み、それには何を必要としたのかを
自分自身で考えさせてくれる導きをくれた、
私にとって新時代の夜明けをくれたピアニストです。
鍵盤に携わっていける永遠の中核が自身に宿ったことが
何よりの宝となり、内なる深淵から感謝しています。
しがないピアノ弾きより
敬具

