デッペと抗力 ①羽根の気付き(中編)
物体同士の間に働く万有引力の法則。
弾く身体とピアノを考える根底にも、地球上、変わらぬ法則は成り立ち、
何気に直結している。
しかし、重力というワードや、物理学的な思考が頭に無くたって、
ピアノは弾けるもので、
先人の言葉は偉大である、と大切にし、信じれる志を持つ日本の風潮も後押しし、
指奏法を疑問視しない歴史も長く刻まれた。
カラントは、ブライトハウプトが出版した理論に断固として反発したため、
後世から見れば、結局音楽教育界から干される形となり、
ピアノ教師としての職場も、一時失ったようだが、
これは、もしかすると
学歴や後ろ盾が無かったことも、要因のひとつだったかもしれない。
師を干す側となったブライトハウプトは、その後、ベルリンの音楽大学に長く勤め、
その教えは、多くの弟子に伝わっていっただろう。
カラントを敬愛していると周りに公言するほどだった
ブライトハウプトの弟子期間は、わずか数か月だった。
その中で、彼女の指導を会得しきるはずもなかったが
結局 ブライトハウプトの書籍が一世風靡するという結末を迎えた。
こうして当時、追いやられ見落とされたカラント理論だが、
現代の生理学なら、そこに矛盾がないことが解明できる。
重みをかけるというワードを取り違え、重い手の呪縛から逃れられないことになる
というのが、カラントが危惧した点のひとつだが
現代であったなら、
生理学用語も的確に使い、彼女もある程度理解を得られたかもしれない。
だが残念なことに、デッペ・カラント論は、多勢に無勢、
戦争も重なって、その希少は蓋をされたのである。
因みに、近年のピアニストとしてかなり著名であった
ハンガリー出身のシャンドールは
早くにアメリカに渡って活躍し、ジュリアードで教鞭をとったが、
自身のピアノ奏法(日本では2005年に出版)の著作の中で、
ブライトハウプトを「重量中毒」と揶揄している。
デッペと抗力 ①羽根の気付き(後編)へつづく