二つ目のアパート その4〜初夏 ポプラと二重虹〜


市民が待ち侘びた
短いワルシャワの夏がやって来た。

ベランダの下には、一階の部屋の芝生庭が見え始めた初夏。

ポーランド語で、トポラ 
日本語だとポプラ。

大家さんが口をへの字にし首を振るようにして、
嫌いと言っていたそれが、突然雪のように舞い降り出した。

ワルシャワの雪は、粉雪が多かった。
ぼたぼたした水気の多い雪は降らない。


しかし歩道の隅にたまって、
雪のように溶けてくれないそのポプラのふわふわは、

現地の人にとっては、
厄介なものにしか思えなかったのかもしれない。


それまで何度か、
学校の周りやトラムの線路に溜まっていたのを
見ていたはずなのだが、

旧アパートの周りにはその木が無く、 
そこまでの景色に遭遇することが無かった。  


窓の前で大木の放つ綿雪は、まるでクリスマスツリー。

気候が似たモスクワでも同じ光景があり
この景色は日本でも利尻島で見られるとか。


私は写真が苦手で、 
カメラというのを持った事が無く、一枚すら残していないのだが

当時、スマホがあれば、きっと意に反してでも
珍しいポプラの記録もたくさん撮っていただろうと思う。



やがてふわふわも全て飛んでいき、ポプラの季節が終わると、
夏真っ盛り。

一階の庭では、
小さな坊やが滑り台でママと水遊びする姿が平和だった。


街にはタンクトップ(キャミソール?)の豊満な女性が増え、
それに比例して、アイスクリームのお店が出没する。

露店も増え、
トラムにはチップ目当てのヴァイオリン弾きも現れる。


同時に、観光客が増えるためか
超分かりすい(見ればすぐ分かる)スリ集団も頻繁に見掛けるようになる。


バスには、絵本に出てくるような可愛い老夫婦が
ナウいサングラスをかけ、

溶けたアイスクリームを片手に仲良く乗車していたのが
今でも忘れられない。


ワルシャワの短い夏を精一杯エンジョイする人々の姿が
そこにあった。



肝心なピアノ。
セカンドアパートでは無問題だった。 

買ってきた重い水を4階まで運ぶ重労働はあったが、
音のことで怒鳴られる恐怖を思ったら
天国のアパートだった。

その部屋から見た、生まれて初めての二重虹は、
鮮明に心に焼き付いている。