テレピンとバス停で財布を拾って届けたお話


10年をひと昔と言うなら、
私がワルシャワに居たのは、ふた昔近くも前のこと。

もう一度訪れたいと思いつつも、なかなかチャンスが無く、
今経済がどんな発展をしているのかも、ほとんど知らないのだけれど

日本/成田からワルシャワ直行便も出て、
かつてよりはだいぶ訪問しやすい国になったようだ。


今はスマホがあれば、日本⇄海外でも
不自由なく会話できるけれど、

ふた昔前は、
日本との直通可能な、いわゆる国際電話ができる携帯電話も
機種として確か1種類しかなく、

つまりは、恐ろしい通信料が掛かった。汗


よって、買わずに日本をたち、
パソコンも持って行かなかった1年目、

日本への連絡手段には、
駅のインフォメーションなどで売られていた

「テレピン」と呼ばれる国際電話専用格安カード?たるカードを
利用していた。


見た目は、今のamazonギフトカードみたいなものなのだが、
裏に書いてある電話番号から介して、

記載してあるシリアルナンバーを入力し、
日本の国番号0081から電話番号を押すと、
割安で国際電話が繋がるというもの。

金額に応じて、
通話可能な時間の長さが違ってくるわけである。


声は聞けるが、必然的に、
フリーダイヤルではない事を頭の片隅に置きながら

無駄話を避けつつ
早口で家族と話すことになる(笑)


残高がゼロになる合図の、「ピー!」が鳴れば、
数秒後にあっけなくブチッ!!と切れるので、

価値はあるけれど、安いものでは無かった。


私は、アパートの前住人から買い取ったFAXが部屋にあったので、
A4の紙に小さな字で留学日記を書いていき、

用紙いっぱいに貯まると、そのテレピンを利用して
日本へ定期的にFAXを送るようにしていた。

ピーピーと送信時分だけの通話料でイケる。


声は聞かせられないけど、FAXは、字体や絵で
色々表現できる利点もあるので、元気に生きている合図になった。



そんなある日
買い物帰りのバス停で財布を拾ったことがある。

自分以外誰も居なかったバス停の椅子の上に、
ポツンとそれがあった。

わ!。。。。
見た瞬間に、あー多分スリが捨ててったものだな。と感じた。

んー( ̄ー ̄ )としばらく悩んだけれど…
中を確認することにした。


やはりお金の札は抜いた後で空っぽ、カード類だけ残していった状態だった。 

持ち主だろう身分証明書が入っていて、
顔写真からまだ若い女性のポーランド人だと予測できた。


うむ、、、落とし主は分かったものの、
自分はここの国では 外人、外国人だ。

拾ったことを証明することはできない と言うことは、
逆に、窃盗を疑われる可能性もあるかもしれない。


このまま警察に行っても
日本の警察のように思っていたら大間違いだよな…

通訳を呼べと言われ、拘束となったら…💦


財布を手にしながら、考えた。。。


身分証を失くすというのは、国に関係なく誰もが困ることだろう。

この事態は、
知らないふりができなかった未熟な自分のせい。

よし。住所を手がかりに、自分で届けよう。


そう決めた。


ワルシャワの番地の付き方は、
規則性があって、その法則さえ分かれば割と探しやすかった。

持ち主さんの住所は、行ったことはないところだったけど
常に地図を見る習慣は付いていたので、すぐ見当がついた。


一軒家ではなくアパート。

ドアを開けてくれない覚悟もしていたのだが、
呼び鈴を鳴らして、ドアホンがつながった際、

コチラからのありったけの情報を伝えると、
最初、旦那さんらしき男性が対応に出てくれた。


きっと私は、アジアの中学生くらいに見えただろう。


子供達がいっぱいのファミリーで、子供の声も後ろから漏れてきた。

顔を見ながら、改めて拾った経緯を説明すると
やがて、持ち主である奥さんが出てきてくれた。


『バス停で拾ったの。でも本当にお金は入ってなかったわ』と
伝えると、『日本人?』と。『TAK(そうよ)』と答えると、

『ありがとう。これが、私にはとても大切なものなの』と
笑顔で身分証のことを指さした。



ご近所さんに怒鳴られたことが、
まだ明確に頭に残っていた頃だったので、

信じてもらえたことが、とても嬉しかった。


誰かに話すこともない出来事だったけれど、 
『ああよかった』とホッとしながら乗った帰路のバスを、

乗り心地良いトトロのねこバスように感じたことが、
今も懐かしい。