筋トレ?
私の周りで、すこぶる「筋トレ」が流行っている時があった。
ピアニストがダンベルでトレーニングしている姿を
TVが紹介したのか?
「最近(楽器のために)筋トレしてるんです♪」
という演奏家アピールをよく聞いた。
ほぉ(´・_・`)
もともと身体が柔らかいほうで、動きが単純に心地良くて、
ストレッチは、気付けば20年以上やっている。
が、筋トレはしたことがなく、
師匠らに、特に必要性を論じられた記憶も無い。
(小学1年生で300mクロールで泳ぐ女子だったので、
どちらかと言えば、もともとが筋肉質タイプかもしれないが)
これは↓私が好きな、イチロー様の名言のひとつ
師事したロマニウク教授は、180cmより大きい身体。
私は、約150cm。まず身長だけで、ざっと30cm差はある。
けれど、
”マキは小さいから、筋肉を付けろ”
と言われたことは、一度も無かった。
筋肉や身体が大きくなることに比例して、
速いパッセージが弾きやすくなる、音量の調節がしやすくなる
という発想も生まれなかった。
その代わり、必要なものは?と問えば、
自分の身体に沿った鋭い感覚と、判断できる正確な耳だと教わった。
教えを受けながらいつも考えていたのは、
先生たちが発する言葉の真意だ。
ロマ教授から言われた単語のベスト3に、
ストントに並んで、ニエがある。
レッスン中、ロマ教授の中で違うと思えば、
NIE(ニエ:違う!)が直球で飛んでくる。
良ければ、TAK(タック:そうだ!)
ほぼ打率は、NIEだが
簡単にTAKなんて出るわけがないし、
そもそも早々からTAK TAKと言われたくて褒められたくて
ワルシャワに来たわけではなかったので、
NIEのダメージで瀕死になりながら、
TAKを必死に求めた。
しかし、ロマ教授の身体の中で起こっていること、
厳密に言えば、皮膚の中の筋肉や関節の動きは、
透視能力や魔法が使えない私は、
どうしたって見ることができない。
その点、救いになるのは、
その中でも注意深く観察し、模索して、
自分のアクションにした時、
ピアノは、良くも悪くも、一応結果として音が出てくれること。
ロマ教授から、
NIEと言われたとき、TAKと言われたとき
その時、自分の中で起こっている
感覚の違いは何か。身体上、何が違って感じるか。
どこがどう動き、どんな感触があるのか無いのか。
そして、NIEとTAKで聴こえてくる、音の違いは何か。
毎度、自分の体感との勝負だった。
自分の身体のプライベートゾーンでしか取れない
感触・感覚のデータを、
少しずつ少しずつ蓄積して統計していくような…
そして同時にそれは、
耳の訓練の積み重ねにもなっていたと思う。
ラミーロ先生は、
よく私の手を取り、腕を取り、指で触れ、
自分の肌を通すかのように、繊細な指導をしてくれるひとだった。
日本でやったら、
あれはセクハラで訴えられるのかもしれないが(笑)
私には必要だった。
今の私の指先にあるものに、繋がっている。
けど、
私が動きだけに捕らわれそうになれば、
「マキ! 一番の先生は、僕たちじゃない。
マキの耳なんだよ」
そう教えてくれた。
茨の道は、一人でしか進めない。
少しずつしか歩めず、必ずまっすぐとは行かない
と思った あの頃だった。